くちなし

鉢植えのくちなしに赤い実が姿を現してきました。

 くちなしはアカネ科の植物、アカネやコーヒーの仲間。学名 はGardenia jasminoides。Gardeniaさんが名付けた「ジャスミンに似た植物」といったところでしょう。7月、大きな白い花からジャスミンのような甘い香りが漂います。庭木の他、街路樹の植え込みにもよく用いられています。くちなしの花の咲いていた所をのぞいてみてください。赤黄色の実が実っています。これがくちなしの実です。残念ながら、八重咲の花には実がつきません。
 「くちなし」の名前は、実が熟しても口が開かない。口なしから名付けられたといわれています。

 11月・12月には私どもの薬局に、くちなしの実を求められる方がお見えになります。栗きんとんや沢庵、白蒸しに使われるとか。昔から、安全な色付けとして用いられてきました。薬用としても重要な薬剤です。漢方薬としては「山梔子(さんしし)」と呼びます。完熟した実を、赤くなる前に摘み取り、ガクを除いて乾燥させて用います。民間薬としては打ち身・捻挫に山梔子を粉末とし、小麦粉や卵白と混ぜて湿布として用います。

 山梔子の薬効は清熱瀉火・涼血解毒・瀉火除煩・清熱利湿・凉血解毒。意味不明の四文字熟語ですが、要は熱を冷ます働きがあるということです。漢方薬として多くの処方に用いられます。

 代表的な処方では防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)・黄連解毒湯(おうれんげどくとう)・加味逍遥散・梔子鼓湯(しししとう)など。どれも症状に熱をもっているときに用いる漢方薬です。例えば防風通聖散は肥満の漢方薬として有名ですが、あくまで、「がっちりした体格で便秘気味。そしてノボセ気味」という人に用いる漢方薬です。「もともと冷え性で、普通体格」の人が美容上の目的で更なるダイエットというのは誤った使い方。有害というべきでしょう。黄連解毒湯も「お酒を飲むと真っ赤になる」人によく効く漢方ですが、「お酒を飲むと青ざめる」人に用いる漢方ではありません。

 山梔子と中華料理で使われる豆チ(とうち)だけの単純な処方があります。梔子?湯という処方です。1800年前、漢の時代に書かれた傷漢論(しょうかんろん)という書物があります。漢方家にとっては今もバイブルとされる書物です。この中に「心煩(しんぱん)懊悩(おうのう)し、起臥(きが)し安(やす)んぜず、嘔(おう)せんと欲して嘔を得ず、(中略)梔子鼓湯これを主(つかさど)る」とあります。粗っぽく訳すと「胸がむかむかして晴れない。寝ても起きても心もとない。むかむかするので吐いてしまおうとしても吐けない。こんなときにはクチナシと豆チを煎じて飲むと良いですよ」といったところでしょうか。通常は不眠に用いられます。

 漢方を学んでいた学生の頃、忘年会でのひどい二日酔いに悩まされ、豆チは黒豆の納豆の一種だと気付き、冷蔵庫の納豆と、四畳半の下宿の前の街路樹のくちなしの実を煎じ、その効果に驚いたことがありました。こんな二日酔い体験が、漢方を好きにさせてくれたのでしょう。

(2010年11月号ピーネット掲載)

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