つゆくさ

 つゆくさは、夜明け前に小さな花を咲かせ、昼には閉じてしまうわずかな命の花です。色鮮やかな青色の3枚の花びらがミッキーマウスの顔のような形をした愛嬌のある花です。

 ブライダルベールも同じくツユクサ科の植物です。

 つゆくさ一輪を摘んで、コップに水を張って挿しておくと、数日で節から根が出てきて、また楽しませてくれます。夜明けの夜露を受け、また、葉の水孔から朝露を葉にしたため、なんとも趣のある花です。

 古くより愛され、万葉集にも幾首も詠まれています。

 「月草に衣は摺らむ朝露に濡れてののちはうつろひぬとも」
 (露草で着物を摺り染めにしよう。朝露に濡れた後では色褪せてしまうとしても)

 つゆくさの花びらは鮮やかな青色。古くより染料としても用いられてきました。あじさいの色素と同じアントシアニンといわれる色素の仲間です。つゆくさの色素は、濃いときには極めて安定な色素です。しかし、面白いことには、水で薄めると色が褪せやすくなり、また、水に溶けやすく、水にさらすと跡形もなく消えてしまいます。これを上手に使ったのが、友禅染です。友禅染の下絵はつゆくさの花びらを集めて作った「青花」といわれる染料が用いられます。

 草津市では今もこの「青花」が作られています。大型の栽培品種のつゆくさ「オオボウシバナ」が、夜明けとともに咲きます。お昼前、11時頃には花がしぼんでしまうため、栽培農家では、夜明けよりつゆくさの青い花びらを収穫します。ガクやオシベが混ざると色が悪くなるため、注意して花びらだけを摘み、更に、ふるいにかけて花びら以外のものをふるい落とします。花びらだけとなったところで、花びらを手で揉んで青い色素を含んだ汁を絞り出します。このつゆくさの色素の汁を細かい布で濾し、和紙に何回も塗り、乾いては塗り、また乾いては塗ることを繰り返します。白い和紙が青く、そして濃い紺色となり、元の紙の4倍の重たさとなったら完成。気の長くなるほど手のかかる仕事です。この和紙を塩昆布くらいの大きさに切り、水を加え友禅染の下絵を描いていきます。下絵のあと、糊置きをして「友禅染め」を行い、水洗いをすれば、糊とともに跡形もなく消えてしまいます。

 葛飾北斎の浮世絵では、濃い青色の顔料につゆくさの「青花」が用いられています。一見しても違いはわかりませんが、北斎の浮世絵は青色に「青花」や藍染の「藍」そして「人造色素」が使い分けられていることが最近の分析技術の進歩でわかりました。

 露草色・藍色・藍鼠…、同じ青でもわずかな色調の違いを活かしきる浮世絵師の感性に、また、色の薄さを活かしきる友禅職人の知恵に驚かされます。

(2010年7月号ピーネット掲載)

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